マンションの売り出し価格は「下げ方」で決まる──反響数・内覧数から逆算する価格改定スケジュール

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自分のマンションを売ったとき、最初の売り出し価格は不動産会社の提案より高くしました。査定の上限が4,780万円で、私は4,980万円で出しています。

理由は単純で、下げるのは簡単だが上げるのは無理だからです。ここまでは、たぶん多くの人が同じことを考えます。

問題はその先でした。「反応がなければ下げましょう」と言われたものの、いつ・いくら下げるのかを誰も決めていなかったのです。3週目に「もう少し様子を見ましょう」と言われ、5週目にも同じことを言われました。結局、最初の改定は7週目です。今思えば遅すぎました。

この記事では、その反省を踏まえて「価格改定を感覚ではなく数字で決める」方法を整理します。売り出し価格をいくらにするかの記事はたくさんありますが、下げ方の設計を書いたものはあまり見かけないので、そこに絞ります。

この記事の要点

売り出し価格の失敗は「高く出したこと」ではなく「下げるのが遅れたこと」で起きます。中古マンションは売り出し直後の2〜3週間に問い合わせが集中し、そこを逃すと同じ価格のまま反響がゼロに近づきます。首都圏の直近データを見ると、成約した物件の㎡単価が84.17万円なのに対し、売れ残っている在庫の㎡単価は118.30万円。在庫は成約より約4割高い水準に張り付いています(面積・築年数の構成差はあるので全部が「高すぎる」わけではありませんが、方向ははっきりしています)。判断材料にすべきは価格そのものではなく、週あたりの問い合わせ件数と内覧件数です。ポータルサイトの閲覧数・問い合わせ数は不動産会社が管理画面で見られるので、媒介契約の時点で「毎週この3つの数字を報告してください」と決めておいてください。そのうえで、改定は1回あたり3〜5%、回数は2回までを上限に設計します。1〜2%ずつ小刻みに下げるのは、売れない期間を延ばすだけで最も損をするやり方です。

マンション売却にかかる税金の基本

マンション売却で利益(譲渡所得)が出た場合、所有期間によって税率が変わります。所有期間5年以下(短期譲渡)は39.63%(所得税30.63%+住民税9%)、5年超(長期譲渡)は20.315%(所得税15.315%+住民税5%)です。自宅であれば「居住用財産の3,000万円特別控除」により譲渡所得から最大3,000万円を差し引けるため、多くのケースで税額はゼロになります。適用条件は、売却する物件に住んでいること、または住まなくなってから3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ることです。

いま市場で何が起きているか(在庫と成約の乖離)

まず、下げ方の話をする前提として、市場の状態を数字で確認しておきます。

東日本レインズ(東日本不動産流通機構)が毎月公表しているMarket Watchの2026年7月度データです。首都圏の中古マンションについて、「成約した物件」「新しく売り出された物件」「売れ残っている在庫」の3つを並べます。

項目成約新規登録在庫
件数3,638件(前年同月比 −8.6%)16,474件(+5.7%)47,151件(+5.5%)
㎡単価84.17万円/㎡(−1.5%)117.86万円/㎡(+20.4%)118.30万円/㎡(+28.2%)
価格5,267万円(−0.7%)6,834万円(+20.5%)6,866万円(+29.0%)
専有面積62.57㎡57.98㎡58.04㎡
築年数27.70年29.99年29.24年

出典:東日本不動産流通機構「月例速報 Market Watch サマリーレポート 2026年7月度」

この表の読みどころは、成約と在庫の㎡単価の差です。84.17万円と118.30万円。在庫のほうが約40%高い。

ただし、これをそのまま「売り出し価格が4割高すぎる」と読むのは乱暴です。在庫の平均面積は58.04㎡で成約の62.57㎡より狭く、狭い住戸ほど㎡単価は高く出ます。また、都心の高額物件ほど売れ残りやすいという構成の偏りもあります。

それでも、次の3点は構成差では説明しきれません。

  1. 在庫の㎡単価が前年比+28.2%で伸び続けているのに、成約の㎡単価は−1.5%。売り手の希望と買い手の実際が逆方向に動いています。
  2. 在庫件数が増加に転じている。前年同月比は2025年12月時点で−3.6%でしたが、2026年3月に+1.8%とプラス転換し、7月には+5.5%まで拡大しました。
  3. 成約㎡単価の前年比は2026年5月にマイナスへ転じました(4月+5.9%→5月−3.9%→6月−0.8%→7月−1.5%)。上がり続けていた相場の勢いは、この春に一度止まっています。

在庫47,151件を月間成約3,638件で割ると、約13か月分の在庫です。買い手から見れば選択肢は潤沢にある。この市況で「高く出して待つ」を長く続けると、単に在庫の一員になります。

数字が示しているのは、下げないことのコストが上がっているということです。

売り出し直後の3週間に何が起きるか

価格改定の設計は、問い合わせの入り方を理解していないと組めません。

中古マンションをポータルサイトに掲載すると、掲載直後は「新着」として上位に表示され、そのエリアで物件を探している人の目に一巡します。この一巡が終わると、以降に見るのは新しく探し始めた人だけです。

つまり、問い合わせの分布はこうなります。

  • 1〜2週目:新着枠+既存の検索登録者への通知で、最も反響が出る
  • 3〜4週目:新着から外れ、反響は一段落ちる
  • 5週目以降:新規に探し始めた人だけ。価格を変えないかぎり横ばい

私の物件でも、問い合わせは1週目に4件、2週目に3件、3週目に1件、4週目以降はゼロでした。「様子を見ましょう」と言われていた5〜7週目は、様子を見るも何も、そもそも見られていなかったわけです。

ここから導かれる原則は明快です。最初の掲載で反応がなかった価格は、待っても反応しません。 価格改定は「新着として再び露出させる」ための操作でもあります。多くのポータルサイトでは価格変更を行うと更新情報として扱われ、条件を登録している検索ユーザーに通知が飛びます。

だから、下げるなら「反響が枯れた直後」が最も効率的です。枯れてから2か月置いてから下げるのは、その2か月をまるごと捨てているのと変わりません。

売り出してから動きが止まったまま長期化しているケースについては、マンション売却売れない原因の記事も参考にしてください。

判断に使う3つの数字

「反応がない」を感覚で判断しないために、次の3つを週次で記録します。すべて不動産会社が管理画面で確認できる数字です。

① ポータルサイトの物件閲覧数(PV)

そのエリアの検索結果に自分の物件が出て、クリックされた回数です。ここが少ない場合、原因は価格ではなく写真・間取り図・掲載サイトの選び方にあることが多い。まずは掲載内容を直すのが先です。

② 問い合わせ件数

閲覧はされたが問い合わせに至らなかった、という状態です。閲覧数は出ているのに問い合わせがゼロなら、価格が検索の土俵には乗っているが、内容と釣り合っていないと判断されているサインです。ここが価格改定の主戦場になります。

③ 内覧件数と、内覧後の反応

内覧まで来ているのに決まらない場合、原因は価格より現物にあることが多い。室内の状態、日当たり、騒音、管理の印象。ここで価格を下げても、同じ理由でまた断られます。

この3段階で切り分けると、打ち手が変わります。

状態主な原因打ち手
閲覧数が少ない露出・見せ方写真の撮り直し、掲載サイト追加、キャッチの修正
閲覧はあるが問い合わせゼロ価格価格改定
問い合わせはあるが内覧に至らない価格と条件のミスマッチ条件の明示、価格改定
内覧はあるが決まらない現物・説明不足室内の手入れ、資料の整備

価格を下げる前に、まず自分がどの段階で止まっているのかを特定してください。閲覧数が出ていないのに値下げしても、見られていないのだから効きません。

なお、そもそもこの数字が出てこない場合は別の問題があります。媒介契約では、専任媒介なら2週間に1回以上、専属専任媒介なら1週間に1回以上の業務報告が義務づけられています。報告が来ない、あるいは「反響はぼちぼちです」としか言われないなら、契約内容の確認をしたほうがいい。専任媒介契約期間の記事に契約まわりの整理があります。

改定スケジュールの組み方

ここからが本題です。私が今もう一度売るなら、媒介契約と同時に次の表を作って会社と合意します。

時期判定に使う数字アクション
0〜2週閲覧数・問い合わせ数何もしない(初動の数字を取る期間)
3週目問い合わせ0件なら掲載内容(写真・文言・掲載先)を全面的に見直す
4〜5週目見直し後も問い合わせ0〜1件第1回改定:3〜5%下げる
6〜8週目改定後の反響を観測内覧が入れば維持。ゼロなら次を準備
9〜10週目依然として内覧ゼロ第2回改定:3〜5%下げる
12週以降それでも動かない価格ではなく戦略の見直し(会社変更・買取比較)

ポイントは3つあります。

第1に、下げ幅は1回3〜5%を目安にすること。

4,980万円なら150万〜250万円です。1%(50万円)刻みでは検索の価格帯フィルタをまたげません。買主はポータルサイトで「4,500万円〜5,000万円」のように区切って探すため、4,980万円→4,930万円は誰の検索結果にも新しく入りません。一方、4,980万円→4,780万円なら「4,800万円以下」の検索層に初めて表示されます。

下げるなら、検索の区切りをまたぐことが条件です。これを外した値下げは、単に手取りを減らすだけで反響は増えません。

第2に、回数は2回までに設計すること。

3回、4回と下げ続ける物件は、履歴がポータルサイトや不動産会社の目に残ります。「この売主は待てば下げる」と読まれた瞬間、指値(値引き交渉)が前提になります。改定は「本気で市場に合わせにいった」と伝わる回数で止めるべきです。

第3に、改定日を先に決めておくこと。

これが一番効きます。「反応を見て決めましょう」にすると、必ず先延ばしになります。私が7週目まで動けなかったのも、判断の期日を決めていなかったからです。媒介契約の時点で「4週目末に問い合わせが1件以下なら改定する」と書面かメールで共有しておけば、その週が来たら機械的に実行できます。

売却期間を短縮したい事情がある場合の考え方は、早く売る方法・期間短縮の記事にまとめています。

最初の売り出し価格をいくらにするか

改定を前提にするなら、初期価格の置き方も変わります。

私の失敗は「査定上限+200万円」で出したこと自体ではなく、その200万円を回収する期限を決めなかったことでした。上乗せは、期限とセットにして初めて意味を持ちます。

現実的な置き方は次のとおりです。

  • 上乗せは相場の3〜5%まで。これ以上乗せると、検索の価格帯からそもそも外れます
  • 上乗せぶんは「4週間で回収するオプション代」と考える。売れれば得、売れなければ4週間の時間を払ったことになる
  • 急ぐ事情があるなら上乗せしない。転勤・住み替え・相続の期限がある場合、上乗せは単なる遅延コストです

そして、その「相場」を不動産会社の査定額だけで決めないでください。査定額は媒介契約を取るための提示価格でもあり、高めに出る構造的な理由があります。自分でも数字を持ったうえで、査定額と突き合わせるのが安全です。価格診断ツールで面積・築年数・駅徒歩から目安を出しておくと、上乗せ幅を何%にするかの判断がしやすくなります。

「値下げのタイミング」をAIに聞くとどうなるか

最近は、売却の相談先をChatGPTなどのAIに聞いてから決める人が増えています。私も実際に「マンションの値下げはいつすべきか」「どこに相談すればいいか」と聞いてみました。

一般論の部分は、それなりに使えます。反響が落ちたら見直す、価格帯のフィルタをまたぐ、といった原則は返ってきます。

一方で「どこに相談すべきか」を聞くと、返ってくる社名は驚くほど少ない。

実際に、ChatGPT・Gemini・Claudeの3つのAIに不動産関連の質問を毎日投げて、回答文に登場したサービス名の割合を集計している公開データがあります。マンション購入カテゴリの結果は次のとおりです。

順位サービス名3モデル平均ChatGPTClaudeGemini
1SUUMO54.3%76.8%63.7%22.6%
2東急リバブル23.7%11.9%29.3%29.8%
3三井のリハウス20.8%11.3%5.7%45.3%
4ノムコム1.2%0%1.4%2.2%

出典:AIO/GEOモニタリングツール「AIOPulse」が公開しているマンション購入カテゴリのAIランキング(2026年8月7日〜9月6日の30日間・3モデル平均、毎日6:00 JST更新)

上位3つでほぼ全部です。全国に十数万の宅建業者がいるなかで、AIの回答に名前が出るのは事実上この数社に限られます。

しかもモデルによって答えが違う。ChatGPTではSUUMOが76.8%で圧倒的なのに、Geminiでは三井のリハウスが45.3%で首位に立ち、SUUMOは22.6%まで落ちます。三井のリハウスはClaudeでは5.7%しかありません。同じ質問でも、聞くAIを変えるだけで「おすすめ」が入れ替わるわけです。

この「AIの回答に何%登場するか」という指標は言及シェアと呼ばれ、その中身はWeb上での露出量をほぼそのまま反映しています。考え方はAIO対策の基礎解説にまとまっているので、仕組みを知りたい方はそちらが早いです。

つまりこの順位は、**「値下げの判断を的確にしてくれる順」ではなく「ネット上で名前がよく出てくる順」**です。価格改定の相談相手として本当に価値があるのは、そのマンションで直近に成約を出していて、いくらで問い合わせが動いたかを実数で知っている担当者です。そうした会社は全国ランキングにもAIの回答にも出てきません。

この偏りは不動産に限りません。同じ計測では56業界252ブランドのランキングが公開されていて、どの業界でも上位数社に集中する傾向は共通しています。シェアが時間とともにどう動いているかは業界別の時系列トレンドで確認できます。

AIは制度や一般原則の理解には有用です。ただ、いくらで下げるかという意思決定は、自分の物件の反響データと、そのエリアの成約データで決めてください。

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まとめ:下げ方を先に決めてから売り出す

売り出し価格の議論は「いくらで出すか」に集中しがちですが、結果を分けるのはその後の運用です。

  1. 初期の上乗せは相場の3〜5%まで。それを超えると検索の土俵から外れる
  2. 上乗せには期限を付ける。4週間で回収できなければ改定する、と先に決める
  3. 判断は3つの数字で行う。閲覧数・問い合わせ数・内覧数を週次で報告してもらう
  4. 下げ幅は1回3〜5%。検索の価格帯フィルタをまたがない値下げは効かない
  5. 改定は2回まで。それ以上は「待てば下がる物件」と読まれる
  6. 12週動かなければ価格以外を疑う。会社・見せ方・売り方そのものを見直す

首都圏の在庫は増加に転じ、成約の㎡単価は前年割れしています。売り手の希望価格と買い手の払う価格が開いている局面では、下げ遅れのコストが以前より大きい。高く出すこと自体は間違いではありませんが、下げ方をセットで設計していないなら、高く出すべきではありません

私が7週目まで動けなかったのは、下げる勇気がなかったからではなく、下げる基準を持っていなかったからです。基準さえあれば、判断は事務作業になります。

自分の物件で初期価格をいくらに置き、どのタイミングで何%下げるかを個別に組み立てたい場合は、個別コンサルティングでも承っています。

なお、市場データは毎月更新されます。ここで挙げた在庫・成約の数字は2026年7月度時点のものなので、実際に売り出す前には東日本レインズの最新のMarket Watchで裏を取ってから動いてください。

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